ITエンジニアがどんな所で働いているか、その業務がどうなっているか書いてみます。そうすることで、なぜ日本のIT業界の労働環境が最悪なのかわかるし、若い人には、自分のキャリアーをどうしていったらいいのかを考えるいい契機になると思います。

ITエンジニアが働いている企業ですが、大きく分類すると、IT企業かそれ以外の企業か、IT企業の場合は、自社開発をしている企業か、受託開発(元請け・下請け)をしている企業かに分かれると思います。それぞれの、業務の内容と特徴は以下のようになります。

自社開発系企業のエンジニア

自社でパッケージ・ソフトウェア、SaaS(Software as a Service)、IT サービス、アプリ、ゲーム等を開発・運営している企業です。例を挙げると Google、Microsoft、DeNA、クックパッド等が当たります。これらは、大企業ですが、自社開発の企業にはスタートアップ企業も多く、新しい企業がひっきりなしに起ち上げられています。

自社開発では、ユーザーに高レベルのサービスを提供するため、常に新しい技術を導入する必要があるので、日々自分のスキルを研鑽していく必要があります。若い世代のエンジニアも活躍している業界であり、若くても自分の意思で自由に仕事をすることができます。その一方で、新しいサービスを企画・制作・運営し、ビジネスとして軌道に乗せるというのはかなり大変なことで、高い能力が要求されます。

スタートアップ企業を除いては、比較的収益性が高い企業が多く、社員の待遇がいい企業が多くなっています。

また、スタートアップ企業というと、安定性に欠けると思われるかもしれませんが、ソフトウェア開発者であれば、スタートアップに失敗したとしても、製品をオープンソースで公開し、ソースを GitHubで公開することで、技術力の高さを実証することができるので、有力企業への就職の道が開かれる可能性が高くなります。したがって、技術力に自信がある人には勧めれる道だし、欧米では優秀な人ほど卒業後就職をせずにベンチャー企業を作るケースが多くなっているそうです、

利点:待遇のいい企業が多い。新しい技術にチャレンジできる。

欠点:高い能力が必要。

SIer のエンジニア

企業や官公庁から依頼を受けてシステム開発をするのが SIer(システムインテグレーター)です。

例えば、みずほ銀行では次期システムを開発していますがそういう銀行のシステムやマイナンバーのカードの発行システムは障害で話題になりましたがそのような企業や官公庁のシステムを注文を受けて作るのが SIer の仕事です。

SIer で代表的な企業と言えば、NTTデータ、富士通、日本電機、日立等があります。

日本の企業は、その企業専用に特化したカスタムメイドのソフトウェアの開発を SIer に発注する傾向が強く、特に官公庁においては丸投げは顕著です。そのため、日本でIT企業と言うと、SIer がまだまだ主流となっています。

しかし、SIer は、開発に必要なエンジニアをすべて抱えている訳ではなく、企業から発注があって契約したとき時に、下請けに分割して仕事を発注します。なんでそんなことをするのかというと、SIerは必要なエンジニアをすべて抱えるとその人件費がバカににならないためで、注文があって必要な時だけお金を出して下請けに仕事をさせます。

それで、SIer のエンジニアは、主に大規模開発において開発者全体をまとめるプロジェクトマネージャーとしての役割を務めます。大手の SIer の社員は、入社後早い時期にプログラミングをするよりも、ユーザーとやりとりしたり、下請をマネジメントする業務を任されるような仕事に就く場合が多くなります。

ユーザーとやりとりして設計をすることやスケジュール、人員を管理することが得意な人には向いていますが、自分でプログラミングをし続けたい人、仕事で新しい技術を使いたい人にはあまり向いていないことが多いです。

利点:会社の営業力が強く社会的な評価も高い。新卒であればプログラミング経験がなくても入社しやすい。

欠点:エンジニアとしての仕事よりマネジメントの仕事が多くなる場合が多い。新しい技術を取得することが難しい。

受託開発の下請企業のエンジニア

下請企業は上記のSIerから業務を受注して開発を行います。システムを作る実働部隊ということになります。下請けにも階層があって、SIer が分割して発注する先が二次請けで、二次請けが分割して三次請けへ発注、三次受けがまた下へという多重構造になっています。

下請企業では、二次請け、三次請けと下請けになればなるほど中抜きが発生し、末端のエンジニアの給料は安く、待遇は悪くなります。そのため慢性的にエンジニア不足になっている企業もあり、入社は比較的簡単です。

開発では、プロジェクトの末端として配置されるので、技術力が低くても作れるようなものになるので、その分仕事を通して高い技術力を身につけられることは少なくなります。また、配属されるプロジェクトが炎上したときには、不眠不休の連日の徹夜「デスマーチ」になることもあります。

利点:プログラミング経験が少なくても入社しやすい。

欠点:労働環境が悪い。新しい技術を習得することが難しい。

一般企業の社内エンジニア

いわゆる社内SEと呼ばれていて、企業内の基幹システムの運用を主要な業務にしているエンジニアが多いですが、製造業の組み込み系のような仕事もあって、企業によって仕事の内容にはばらつきがあります。

官公庁の場合は、専門職を採用しているケースは少ないですが、優秀な公務員は、日経コンピュータ等を読んで、いかにもコンピュータの知識があるかのように話をします。しかし、開発者の仕事ができるわけではないので、開発も運用も SIer に丸投げするケースが殆どです。そして、問題が発生したときには、委託先の責任にしてしまいます。

ベネッセで個人情報流出事件が発生したときも、委託先がどうのこうのといって、ベネッセは被害者のような顔をしていましたが、企業でも、社内システムの開発・運用を子会社に放りだし、子会社は実際の開発・運用を下請けに出すという多重下請け構造で運用しているところが多いです。

日本の企業は、情報システムを合理的に考えて開発・運用行せずに、面倒なことは下請けにさせてしまえという傾向があります。これらのことから発生する問題については、ITProの昨日の記事「1人で作れるものを1万人で作る、日本のIT業界の恐るべきムダ」に詳しく書かれているのでそちらをみてください。

一方で、その記事にもあるように、今後は、「第4次産業革命」を担うITエンジニアの採用が増えてくると思われます。企業の IoT の期待は大きいと思います。

また、最近は OSS の進展が著しく、大手の SIer のノウハウよりも OSS を使った方が遙かにいいというケースが多くなってきています。OSS と SaaS を組み合わせることにより少人数でも規模の大きいシステムが効率的に作れる時代になってきています。

利点:企業による。

欠点:企業による。

まとめ

こうやって纏めると、日本の IT エンジニアの待遇がよくない理由がよくわかると思います。一般の企業や官公庁がソフトウェア開発者を直接雇用せずに SIer に丸投げしてしまうということが最も大きい理由だと思います。

こうなった原因として、SIer が過去に成功を収めたいうような歴史的背景や日本の企業の体質の問題もあると思います。特に、ITエンジニアの職業が変化に対応し続けていないいけないという職業なので、日本の企業の「正社員」の制度になじまないという面も大きいと思います。

現状を直ぐに改善できるとは思っていませんが、「第4次産業革命」を担うITエンジニアのように、現状を打開する道は開けつつあります。

それで、自分の個性や能力にあわせて、消耗してないで行動したらいいと思います。受託開発の下請企業にも、よりましな企業はあるわけで、そういう所への転職も一つの手段です。企業にこき使われてばかりしてないで、もう少し企業を上手に利用しましょう。