BLOGOSで大石哲之氏が「ワタミズムによって維持されてきた日本の豊かさ」という記事を書いている。

日本人は、米国と比べて同じような賃金水準を保っているのではないか。一人あたりGDPでは負けて無いのではないか?生産性がこれほど違うのに、なぜ同じような生産(GDP)を維持できるのか。
生産 = 生産性 x 労働投入時間
とすれば、調整できる変数は一つしか無い。そう、労働投入量(労働時間)である。
つまり、12時間の労働投入があれば、7割の生産性でも、100のアウトプットがえられる。

大石哲之氏は「アメリカにGDPで負けていない」といっているが、実際は一人あたりGDPでも大きく負けている。World Bank の 「GDP per capita, PPP」によるとOECD諸国の2011年の一人当たりGDP(単位:国際ドル)は以下のようになる。

1 ルクセンブルグ 88,797
2 ノルウェー 60,392
3 スイス 51,227
4 米国 48,112
5 オランダ 42,779
6 オーストリア 42,172
7 オーストラリア 41,974
8 スウェーデン 41,484
9 デンマーク 40,933
10 アイルランド 40,868
11 カナダ 40,420
12 ドイツ 39,456
13 ベルギー 38,723
14 フィンランド 37,455
15 アイスランド 36,483
16 イギリス 35,598
17 フランス 35,247
18 日本 33,668
19 イタリア 32,672
20 スペイン 32,087
21 ニュージーランド 31,082
22 韓国 29,834
23 イスラエル 28,809

米国を100として考えると、日本の一人当たりGDPはおよそ70%であり、労働生産性とほぼ同じだ。

大石哲之氏の翌日の記事「ワタミズムと生産性 日本が取りうる3つの改善シナリオ」 で次のように書いている。

一人あたりGDPでたとえ3割へっても、イタリアと同じくらい。彼らは豊かにくらしているではないか。

これは明らかに間違いであって、日本はサービス残業をしてやっとイタリアと同じくらいのGDPになっているのであって、サービス残業をやめてGDPが3割減れば東欧やトルコ並の生活になってしまうのである。

労働生産性の計算からすれば、生産額にはサービス残業をした分が含まれるが、労働時間にはサービス残業の分は考慮されていないので、サービス残業をしてやっとアメリカの70%の生産性を維持していることになる。もし、3割サービス残業のしているのであれば、日本の実質的な労働生産性はアメリカの50%ということになる。これもGDPと同じことだ。

以下の表が、日本の得意分野である製造業の労働生産性の推移である。1995年には日本は世界一であった。しかし、その後アメリカが大きく伸びて現在ではアメリカの7割程度になっている。アップル社のようにアメリカ国内には高付加価値なソフト部門だけを残し、労働集約的な部分は中国等の外国に移転させたことによるものであろう。

 image

日本生産性本部「日本の生産性の動向 2012年版」31Pを抜粋

それでは、20年前のように製造業で日本が労働生産性を再度世界一にすることはできるのだろうか。20年前の世界一になったのは、日本人の勤勉さと器用さによるものだと思う。でも、現在は中国にも東南アジアにも勤勉で器用な労働者が大量にいる。そして賃金は日本の10分の1ぐらいだ。そういう状況では、世界から優秀な人間を集めているアメリカに負けてしまうのは仕方がないことである。

日本の労働生産性の低下というのは、本当に深刻な問題である。サービス残業によってやっと新興国レベルに落ちないようにしている状態である。最早、日本の企業は強くなくなっているから、会社に不満がある優秀な人はぜひ起業して生産性の高い企業を作ってほしい。